生きてこそ -ALIVE- | Stairway To Stardom

生きてこそ -ALIVE-



あらすじは画像のリンク先で読んでくださいね☆

さて。
この場でコメントするのは
非常に難しい作品だなぁ^^;
個々人の信教、死生観、
哲学やポリシーによって、
捉え方も理解度も
完全に異なってしまうテーマだから。

悪くなかった気がしていたので
廉価で買って放りっぱなしにしていたDVDを、引っ張り出して観た。

この作品は、高校生のときに劇場で観たことがある。
当時は敬虔なクリスチャンで、
日曜日には教会で聖餐のパンと水をいただいていた。
そういう僕だったからこそ、
キリスト教系の大学に通う彼らの極限での心理が、
自分のことのように共感を持って理解できたのだろう。

冬のアンデス山中に放り出され、ろくな装備もない。
食料も防寒具もなく、
事故直後には30名ほどが生きていたのに、
結果的に45名中16名しか生き残れなかったような状況で、
あなたならどうしただろうか。

日本人は、日常生活の中では特に神様と無縁だ。
これは、この地球上では特に進んだ考え方だと思う。
中世の無知蒙昧な世界から、先頭を切って抜け出したことの証だ。
だから、僕ら日本人はこの作品を観て、
キリスト教世界に生きる人たちほど、泣いたり、憤慨したり、
心打たれたりしないだろう。
間違いない。
そんなあなたたちは、実に冷静で素敵だ。
純粋に生命の尊さを感じ、
自分の置かれた状況を把握できることだろう。

以前の僕は、神の存在、試練と慈悲、自然の脅威と厳しさ、
生きていることの素晴らしさなどを感じ、
観終わったときには、今こうして存在していること、
生きていることを、涙を流して神に感謝したものだ。

しかし、今は違うのだ。

人の考え方、哲学は変わる。
より素晴らしいものに触れ、学び、感じ考え、
必ず良い方向にシフトしていく。
あなたの脳が柔軟であり、目が見開かれ、
意識が啓かれている限り、悪くなりようがない。

今の僕はどうか。
彼らが祈り、頼み、すがり、
罵り恨み感謝した神が存在しないことを知っている。
この広い宇宙のどこを探しても、白い髭の、
全能の御老体は存在しない。
だから彼に祈ることはないし、「食料」を前に躊躇はしても、
食べないという自殺行為には及ばないだろう。
愛するものが召された後に残るのは、
それを構成していた物質だけだから。
間違いなく僕も彼らと同じことを言っただろう。
「俺が死んだら俺を食え。でもマズイって言うなよ」と。

時代も時代だ。
作品が公開されたのは1993年。飛行機事故は1972年。
どちらも今から考えれば、まだまだ不便な時代。
Windows95も出ていないからパソコンもインターネットも、
携帯電話もない。
ましてやDNAの解析や遺伝子治療、クローン技術など夢物語だ。
この2005年から振り返ってみれば、1993年も1972年も大差ない。
一緒くたに「時代遅れの過去」と見なして差し支えない。
この作品は、そういった太古の価値観、倫理観の延長上にある。

今現在も、日本を含む一部の先進国を除いて、
我々日本人の生きる最先端の「現代」とは程遠い、
中世の延長に生きている人々がほとんどなのだ。
中国、北朝鮮、中東、アフリカ・・・
そもそもインターネットの禁止、
特定の国や価値観の作品の上映の禁止、
音楽の禁止等を、住民が草の根レベルで、
自主的にやっているのではなく、
為政者が自己の利益を守るために行っているような国々が、
実に数多く存在しているのだ。
この21世紀の、地球上に!
もう西暦2000年をとうに過ぎた、
かつての未来世界に生きているというのに!
鉄腕アトムは誕生しているし、
タカヤノリコだってそろそろ宇宙怪獣を倒しに宇宙へ行くんだぞ!?
ドラえもんだって前倒しでできちゃうかもしれないのに。
(ゴメン暴走・・・)

(・・・戻ってきた)
まぁそんなだからさ。
映画はエンターテインメントでもあり。
どっかのお偉いさんが勝手に規制するべきものじゃなくて、
観たいものは観て、観たくなければ観なければいい。
人を楽しませ、考えさせ感じさせ、
啓蒙することができるのが映画のいいところだと思うのよ。
俺はそういうスタンスで映画に関わっていきたいんだ!

で、この映画の評を冷静に書いてみるとね・・・

○70日間の遭難状態に耐え、救助された人々がいたからこそ
 こうして作品にもなったけれども、
 乗員乗客全員死亡の単なる飛行機事故だったら、
 ストーリーになんてなったもんじゃない。
 実際、彼らもサバイバルに必死で、
 大命題を前に長々と悩んでいたわけではない。
 餓死を選択したキリスト教世界のヒーローは、一人もいなかったのだ。
 墜落→生存→生還というアウトラインの中に、
 僅かな物品で生き残るための工夫をしたことと、
 食べるか食べないか、という至極単純な選択肢しか
 題材が存在しないため、作品的にはほとんど見るものがなかった。
 「生き残る」ためには全く議論の余地がないのだから・・・
 意外なほど単純なドキュメンタリー映画なのだ。

というふうにしか書けないかな。
実際、劇場では観られなかった特典映像についている
生存者たちのインタビューの方が、映画より何倍も面白く、
いろいろ考えさせられましたから。

でもね、ラストの救助シーンにはジーンときました。
以前の僕が、神に感謝するというのとは違う感動。
望みを捨てず、長い苦難に耐えていざ助かったときの、
彼らの喜びの大きさを多少なりとも感じられて、目が潤みました。
あぁ・・・よかった・・・と。
映画を見ている観客としての自分のものとも、
その場にいる彼らのものともつかない喜びを感じました。
この作品のいいところは、ただ一点、
彼らの苦しみや悲しみ、
寒さや飢えを凝縮した長い長い2時間の先にある、
このラストシーンにあると言えるでしょう。

評価はB+
★★★★★☆☆☆☆

可もなく不可もなく。
実際にあった出来事なんだから
ストーリーや設定に文句はつけられない。
生きていることがなんだか分からなくなって、
そのあたりを多少つついて欲しい時には
観てもいい映画かもしれないね。